見上げる空がはりぼてにしか見えなかった。
日に向かって木は伸びる。
草は育って蔓延る。
それは仕方ない。自然なことで、当たり前だ。
それでは、私の中のものは如何だろう。
この体を侵略しているものが育つのが当たり前なのか。
当たり前らしい。
この前死んだ十五番の妹も、そのすぐ後に死んだ六番の兄も、ずっとずっと前に死に続けた私の兄弟も姉妹も、大体それで死んだ。
仕方ないことらしい。
母親曰く。
そういえば、一年くらい前に死んだ弟・・・確か十六番はどうしようもなく太陽を怖がっていた。
木が育つから。僕は早く死にたくない、と。
そういった弟はずっと日の光を浴びなかった。
別の理由で死んだ。
日の光を浴びなかったせいらしい。
内臓がおかしかったのだそうだ。
母親曰く。
今日は晴天。
青色の張り紙は上にくっついてはがれずに、広がっている。
こういう空は見続けていたくない。
涙がこぼれてしまう。
はりぼての私の周りはまるで絵本のようだ。
おめでとう。私はまだ生きてるよ。
仕様が無いね。私はまだ死んでない。
「十二番」
――――母親曰く
「母さんが呼んでるよ」
――――私たちは外では異質らしい。
「ういうい。わかったさ~」
十四番と九番を後にして母親のところへ行く。
広い庭を横切って、適当に壊れている家の壁を見つけて入る。
此処には玄関がないから。
傍目から見たら廃屋もはなはだしいだろう。
広いだけが取り得の家を取り得のない私は歩く。
床が抜けた。
「う?!・・ぉわ!?!」
「何しちゅう!!!!」
頭をぶつけたと思った。
母親の手があった。
目の前には母親の顔と空から剥がれ落ちたような真っ青な髪が悲鳴のように揺れていた。
「何しちゅうの?!何しちゅうの!?死んだらどうちゅうとおもとうの?!」
キンキンと声が痛い。いや、耳が痛いのかな?
でも、これは声が痛かった。
「これくらいじゃ死な」
「あぁ、もう死んじゅうな死んじゅうな。わての子。わての子。死んじゅうな。死んじゅうな」
「・・・」
『死なないさ』とこの距離でこぼしたけれど、母親の耳には届かなかったみたいで、
「あぁぁぁあぁぁっぁあぁぁあぁぁぁ、しんじゅうなよ。しんじゅうな。死んだら許さんちゅう。絶対。ぜったいぜったいぜったい絶対」
耳鳴りがする。
背中に食い込んでいるような爪は丁度生えている植物に当たっているようで、痛くない。
「わてより早く死んだら、わてを一人に、独りにしたら、・・・・許さんちゅう・・・・・」
痛くないのだ。
私の命は母親のためのものなのだから。
母親が外の、この箱庭以外の場所の話をするときはいつも悲痛そうだ。
よくわからないが、外の人は母親をいつも虐めたそうだ。
ハクガイと彼女は言っていたが、それはそれはこっぴどく虐めたそうだ。
自分達は変なもので、外の人たちは其れが嫌いで、自分達は自分達以外―――この血族以外で本当には理解されないものなのだそうだ。
では、何故母さんは忍をしているの?と聞いた。
虐めないからだと彼女は言った。
それならどうして、独りなのか。
私は聞かない。
聞いたところで、彼女のための命は変わらない。
母親は私たち以外を認めない。
彼女は此処にくるまでの間の孤独を捨てられない。
子供が死んで自分のために悲しむ彼女は、母親としてよりも人間としておかしかった。
嫌う孤独を自分で作っている彼女はもう抜け出せない蟻地獄に居るようで。
「死なないさ。・・・・母さん」
それでも私の母親だった。
それでも私の空だった。
急な坂道を駆ける。
初めて箱庭から出た。
鞠が坂を落ちていく。
獣道で見失わないように必死でおいかける。
「・・・・・ういうい」
見失った。
ため息をつく。
家の囲いの周りにはやっぱり誰も住んでいなくて、少しばかりの期待は泡と消えた。
空を見上げる。今日も泣きそうな晴天。
鳥が飛んでいる。
そんなところ飛んで楽しいのか。
あぁ、母さんに見つかる前に帰らなきゃ。
結構遠くまで来たような、そうでもないような。
道は覚えてる。大丈夫。
「コレ、ソチラの?」
「うい?」
飛べない鳥が落ちてきた。
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絵板で予告しましたが、自己満足麒麟で十の御題。
一番初めは麒麟幼少期。
彼女の母親は自分の体のため迫害を受けてきたのでちょいと人間不信。
麒麟の血族は例外なく植物が生えます。
10代になるまでこの植物は体の中で安定しないので麒麟の肉親はどんどん植物に食い破られて死んでます。この頃のほうが麒麟は冷めてたり。
この頃名前はなくて十二番ってのが名前でした。要は十二番目の子供ってことです。
この御題。連作になったり、短編になったりしますので、ぼちぼち自己満足にやっていこうと思います。
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